頁数:54頁、発行:2025年5月、発行元:ENDURANCEプロジェクト(Euratom、GA 101165896)、言語:英語、無料公開
欧州で開発が進む熔融塩炉の設計を、一冊にまとめて比較できる形で整理した報告書です。EUのEuratom計画が2024年10月に立ち上げた熔融塩炉の知識拠点プロジェクト「ENDURANCE」(2024-2028年、ミラノ工科大学が調整、7大学・8研究機関・4スタートアップが参加)の最初の成果物にあたります。
各設計について、燃料に使う塩の種類(フッ化物か塩化物か)、中性子スペクトル(熱中性子か高速か)、核分裂性物質、熱出力、用途が統一の様式で記載されており、設計ごとにばらばらな発表資料を突き合わせる手間なく、欧州の全体像を把握できます。スタートアップの構想と国立研究機関の構想が同じ土俵で並んでいる点も、この文書の価値です。
各設計の解説は、設計者自身(NAAREA、Stellaria、Seaborg、CNRS等の所属者)が執筆に加わっています。
収録されている設計
- ARAMIS-P / ARAMIS-A(仏CEA・オラノ、ISACプロジェクト)— 塩化物・高速。Puの燃焼と、アメリシウムの変換
- CMSR(デンマークSeaborg、現Saltfoss)— フッ化物・熱中性子。5%未満の低濃縮ウラン、洋上バージ搭載
- Copenhagen Atomics MSR(デンマーク)— フッ化物・重水減速。トリウム燃料サイクル
- MSFR-F(仏CNRS+EUプロジェクト)— フッ化物・高速。トリウム/U-233サイクル
- MSFR-Cl(仏CNRS、SAMOSAFERで開発)— 塩化物・高速。ウラン/Puサイクル
- RAPTOr(仏CNRS・オラノ)— 塩化物・高速。Pu・MAの燃焼専用版
- Stellarium(仏Stellaria)— 塩化物・高速増殖炉
- Thorizon One(蘭Thorizon)— フッ化物・熱中性子。交換式カートリッジ方式
- XAMR(仏NAAREA)— 塩化物・高速。80MWth、炭化ケイ素製炉心
読みどころ #
MSFRに2つの版があることが明記されています。 第4世代原子炉国際フォーラム(GIF)が2008年に参照炉型に選んだMSFRは、CNRSが2004年から開発し、EVOL(2009-2013年)、SAMOFAR(2015-2019年)、SAMOSAFER(2019-2023年)という一連のEuratomプロジェクトを通じて育てられてきました。当初のフッ化物・トリウム版(MSFR-F)に加え、SAMOSAFERで塩化物・ウラン/Pu版(MSFR-Cl)が新たに開発された経緯が記されており、文献で「MSFR」を見かけたときにどちらの話か判断する助けになります。
塩化物が選ばれる理由が、中性子の速さだけではないことが分かります。 ARAMISの節では、塩化物を選定した理由として、フッ化物よりプルトニウムの溶解度が高いこと、中性子スペクトルがより硬くなることに加えて、塩化物が水に溶けるためフランスが既に持つ湿式の再処理・分離技術と接続できることが挙げられています。炉の設計が、その国が持つ既存設備に規定される様子が読み取れます。
関連文書 #
ENDURANCEと並行して、Euratomは使用済燃料の多重リサイクルを扱うMIMOSA(2022年開始、オラノが調整)を進めており、こちらは塩化物熔融塩炉によるプルトニウムの多重リサイクル戦略が主題です。両プロジェクトの概要はEPJ Nuclear Sciences & Technologies誌の解説記事にまとめられています。
ENDURANCEプロジェクトの成果物は公式サイトで順次公開されています。
なお本書は2025年時点の記録であり、各設計は現在も変更が続いています。最新の状況は各機関の発表を確認してください。