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経済性の見積もり

このページに掲載する数値は、1980年から2019年にかけて行われた試算です。近年の建設費環境は当時と大きく異なるため、そのまま現在の見通しとして読むことはできません。数字の性格については末尾に注記しています。

どれほど優れた技術でも、電気が高ければ意味がありません。 原子力が事業として苦しくなった経緯はなぜ世界は軽水炉に収斂したのかで述べたとおりで、経済性は避けて通れない論点です。

構造的に有利と考えられる点
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熔融塩炉のコストを考えるとき、まず押さえるべきなのは何が要らなくなるかです。

  • 固体燃料集合体の製造・検査・輸送・取替え・解体・再処理・再加工・検査・管理という一連の作業と、それに関わる施設が不要になる
  • 炉の寿命の間、炉容器に触れる必要がない
  • 常圧運転のため、高圧に備えた設備が要らない
  • 安全系が簡素化される
  • 燃料交換のための停止が不要なため、稼働率が高くなる
  • 熱効率が高い(44%程度)

一方で不利に働く要素もあります。三系統構成になること、一次系全体が放射性物質に接するため遠隔保守が前提になること、そして材料や燃料塩の調達網が未成熟であることです。

過去に行われた試算
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米国での比較(1980年、2002年)
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米国オークリッジ国立研究所が1980年に行った100万kWe級での比較では、次のように評価されています。

項目 評価
資本費 三系統構成でやや複雑になる要素はあるが、プラント効率が高く、炉内圧力がほぼ常圧で、安全系も簡素化されるため、トータルでは軽水炉と同程度
燃料費 軽水炉は大量の天然ウランと濃縮U-235を要するが、熔融塩炉はわずかなトリウムとU-233の補給で済む。燃料成型加工費も不要で、かなり安い
運転保守費 遠隔保守が必要だが、安全系の簡素化と長期運転により、軽水炉より安いと評価
稼働率 燃料交換が不要で、軽水炉より高いと見込まれる

その後、米国ローレンス・リバモア国立研究所がこの比較を再評価しました。稼働率を熔融塩炉90%、加圧水型軽水炉80%と想定した結果が次の表です(単位はセント/kWh)。

項目 熔融塩炉 加圧水型軽水炉
資本費 2.01 2.07
運転保守費 0.58 1.13
燃料サイクル費 0.11 0.66
廃棄物処理費 0.10 0.10
解体費 0.04 0.07
合計発電コスト 2.84 4.03

この試算では、熔融塩炉の発電コストは加圧水型軽水炉より約30%安いという結果になりました。

なお、この計算の基礎となったMSBRやMSCRと違い、FUJIは連続化学処理設備を持たないため、さらに有利になると考えられます。また、黒鉛の寿命がプラント寿命以上であると実証されれば、黒鉛交換設備が不要となり資本費が改善します。

参考文献

  • J. R. Engel et al., “Conceptual Design Characteristics of a Denatured Molten-Salt Reactor with Once-Through Fueling”, ORNL/TM-7207, 1980年
  • R. C. Robertson「Conceptual Design Study of a Single-fluid Molten-Salt Breeder Reactor」ORNL-4541, 1971年
  • R. W. Moir, “Cost of Electricity from Molten Salt Reactors”, Nuclear Technology, Vol.138, No.1, P.93-95, 2002年

小型化した場合の推定(2018年)
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上の評価は100万kWe級のものです。25万kWeのFUJIについて、旧サイトでは次のように推定していました。

一般に産業システムには2分の1乗則が働くとされます。4倍の大きさのものは、およそ2分の1の製造単価になる、という経験則です。逆に4分の1の大きさなら製造単価は2倍になります。

この考え方によれば、25万kWeのFUJIは100万kWe機の2倍の単価となり、資本費が2円/kWhから4円/kWhへ上がります。合計の発電コストは5円/kWh程度、モジュール生産方式が使えればもう少し下がって4〜5円/kWhという見積もりでした。

建設費の絶対値としては、100万kWe機を20億ドルとした場合、10万kWe機で6.3億ドル、25万kWe機で10億ドル程度と推測されています。

これらの数字をどう読むべきか
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重要な注意点があります。

第一に、これらは概念設計にもとづく見積もりであり、実績ではありません。 建設された熔融塩発電炉は世界に一基も存在しないため、検証されていない前提の上に立っています。商用炉をつくるという壁で述べたとおり、原子力では規模と運転期間が上がった段階で想定外の費用が現れてきました。

第二に、比較対象である軽水炉のコスト自体が大きく変動しました。 旧サイトでも2015年に、安全性強化要求により軽水炉の建設費が従来の2〜3倍に高騰し、発電コストが11〜15円/kWhになったと追記されています。近年の欧米での新規建設では、さらに大幅な超過が生じた例もあります。分母が動いている以上、「30%安い」という比較は現時点では成立しません。

第三に、小型化による単価上昇を量産効果で相殺するという見立ては、まだ実証されていません。 小型モジュール炉に共通する期待ですが、量産効果が現れるには相当数の建設が前提になります。最初の数基は高くつきます。

第四に、燃料と材料の調達コストが織り込まれていません。 リチウム7の濃縮、高純度の塩、ハステロイN系の合金——いずれも産業として成立する規模の供給網がまだありません(核燃料をどこから調達するか)。

それでも意味がある部分
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数字そのものより、コスト構造の違いが示されている点に意味があります。

上の表で最も差が大きいのは**運転保守費(0.58対1.13)と燃料サイクル費(0.11対0.66)**でした。これは偶然ではなく、燃料の成型加工と交換という工程が丸ごと存在しないことの帰結です。

つまり、「安いかどうか」はまだ分からないが、「どこが安くなり得るか」は構造から説明できる——現時点で言えるのはここまでだと考えています。