熔融塩炉(溶融塩炉)に関するニュースを追っていると、炉の設計とは無関係に見える話題が繰り返し登場します。米国の濃縮ウラン工場の建設計画、燃料の供給不足、兵器級プルトニウムを民間企業に渡すという決定——。
これらは脱線ではありません。どんなに優れた設計でも、燃料が手に入らなければ炉は動きません。 そして燃料が手に入るかどうかは、しばしば炉の設計そのものを書き換えます。
このページでは、3つの質問で扱った炉の設計とは別のレイヤーにある、燃料調達の話を整理します。
濃縮度という物差し #
まず、ニュースに頻出する用語を整理しておきます。
天然のウランのうち、核分裂しやすいウラン235はわずか0.7%です。残りはウラン238で、そのままでは燃えません。そこでウラン235の割合を人工的に高める——これが濃縮です。
濃縮の度合いによって、呼び名と扱いが変わります。
| 呼び方 | ウラン235の割合 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 天然ウラン | 0.7% | 重水炉、黒鉛炉 |
| 低濃縮ウラン(LEU) | 3〜5%程度 | 現在の軽水炉 |
| HALEU | 5%超〜20%未満 | 新型炉の多く |
| 高濃縮ウラン(HEU) | 20%以上 | 核兵器に転用可能 |
20%という境界が決定的です。 これを超えると核兵器への転用が現実的になるため、国際的に厳しく規制され、民生用途からは事実上締め出されました。固体燃料でのトリウム利用の試みが挫折した理由の一つが、まさにこの規制でした。
そこで登場したのがHALEU(High-Assay Low-Enriched Uranium、高純度低濃縮ウラン)です。20%を超えない範囲でできるだけ濃縮度を上げた燃料で、規制上は「低濃縮」に分類されます。
新型炉の多くがHALEUを求めるのには理由があります。炉を小さくしたい、燃料交換の間隔を長くしたい、減速材を減らしたい——いずれも、単位体積あたりの核分裂性物質を増やす必要があるからです。
HALEUが足りない #
ところが、HALEUを商業的に供給できる体制が、西側にはほとんど存在しませんでした。
長らく唯一の商業的な供給源はロシアでした。この構図が安全保障上の問題として一気に顕在化したのが、ウクライナ侵攻以降です。
米国は2024年8月、ロシア産低濃縮ウランの輸入を禁止する法律を施行しました。2040年まで有効ですが、代替供給がない場合の一時的な適用除外が認められており、その猶予も2028年には切れます。米国の電力会社が持つ在庫と既存契約は3年分程度と見積もられています。
対応として、米国議会は濃縮能力の増強に27億ドル規模の予算を計上し、エネルギー省は複数の企業と濃縮の契約を結びました。HALEUについては、退役した研究炉の燃料などから確保した在庫を、開発企業に配分する仕組みが動いています。TerraPower、Kairos Power、Westinghouseなどが配分を受けており、熔融塩炉ではNatura Resourcesも供給先に選ばれています。
国内生産も始まりました。米国のセントラス社はオハイオ州の施設でHALEUの製造を開始し、商用規模への拡大に向けた契約を得ています。
ただし、規模を実感するために数字を並べてみます。
同社がエネルギー省に納入したHALEUは、契約の第2段階を完了した時点で900kgでした。一方、前述したNatura社の研究炉——出力わずか1,000kW(熱出力)の大学の研究炉——が最初の運転に必要とするHALEUは約500kgです。
研究炉1基分の初装荷で、国内生産のかなりの部分を使い切ってしまう規模感です。商用発電炉が何基も並ぶ状況には、まだ距離があります。HALEUの獲得競争が報じられるのは、このためです。
なぜ米国に濃縮工場がなかったのか #
ここで当然の疑問が生じます。米国は核兵器開発を通じて世界に先駆けて濃縮技術を手にした国です。なぜ今、工場を建て直しているのでしょうか。
答えはなぜ世界は軽水炉に収斂したのかにあります。
1970年代以降、欧州が高効率な遠心分離技術を実用化し、米国の旧来方式は消費電力で太刀打ちできなくなりました。決定打は1990年代です。冷戦終結にともなって放出されたロシア産の安価な濃縮ウランが市場に流れ込み、米国の濃縮産業は商業的に成り立たなくなって消滅しました。
つまり現在の状況は、四半世紀前に市場原理にしたがって手放したものを、安全保障上の理由で買い戻している、ということです。燃料供給網は、一度失うと再建に十数年を要します。
余剰プルトニウムという「タネ」 #
もう一つ、一見すると異様に映るニュースがあります。米国が、解体した核弾頭由来のプルトニウムを民間企業に供給しようとしているという報道です。
背景には二つの事情が重なっています。
一つは、余ったプルトニウムの処分先がないこと。 冷戦の終結で大量の兵器級プルトニウムが余剰となりましたが、これを燃料に加工する計画は頓挫し、行き場のないまま保管が続いてきました。保管そのものにコストと警備の負担がかかります。
もう一つは、新型炉の側に需要があること。 3つの質問の質問3で述べたとおり、トリウムは中性子を吸収してU-233に変わって初めて燃料になります。U-233は自然界に存在しないため、運転を始めるには「タネ」となる核分裂性物質が必要です。プルトニウムはこの役割を果たせます。
米国エネルギー省は約20トンのプルトニウム(金属4.4トン、酸化物15.3トン)を対象とする枠組みを設け、2026年5月に5社を選定して交渉に入りました。このうちFlibe EnergyとExodys Energyは、いずれも熔融塩炉の開発企業です。
Flibe社はトリウム熔融塩炉の起動用燃料としてプルトニウムを使う構想を、Exodys社は塩化物高速炉でプルトニウムそのものを燃やし尽くす構想を持っています。
処分に困っている物質と、必要としている技術が噛み合った——「なぜ兵器級プルトニウムを民間に渡すのか」というニュースの正体は、この一致です。
見落とされがちなリチウム7 #
ここまでウランとプルトニウムの話をしてきましたが、フッ化物熔融塩炉には、あまり語られないもう一つの供給上の急所があります。
フッ化物熔融塩の主成分はフッ化リチウムです。ところが天然のリチウムには、リチウム6が7.5%ほど含まれています。このリチウム6は中性子を吸収してトリチウムに変わります。 トリチウムは高温の金属をすり抜けるため、閉じ込めが難しい放射性物質です。
これを抑えるには、リチウム7の純度を99.99%以上に高めた原料が必要になります。中性子の利用効率という観点からも、リチウム7の純度は炉の性能を左右します。
問題は、この濃縮リチウムを供給できる国が限られていることです。
米国は1960年代に水銀を用いる方法で濃縮リチウムを生産していましたが、深刻な水銀汚染を残して停止し、現在、国内に生産設備を持っていません。実際に生産しているのは事実上ロシアと中国だけで、しかもそれは水爆用トリチウムを作るためのリチウム6濃縮の副産物という位置づけです。
つまり、ウランの脱ロシアを進めても、フッ化物熔融塩炉を建てようとすれば、リチウムで同じ依存に突き当たります。 ウラン濃縮ほど注目されていませんが、フッ化物熔融塩を選ぶ以上、避けて通れない論点です。
トリウムだけは余っている #
対照的なのがトリウムです。
トリウムは地殻に豊富に存在し、レアアースの採掘にともなって副産物として産出します。むしろ、放射性物質であるがゆえに処分に困っているのが現状で、レアアース生産の足かせにすらなっています。
トリウム利用の魅力の一つは、この「持て余されているもの」を資源に変えられる点にあります。ただし、それはタネの問題を解いた後の話です。トリウムそのものはいくらでも手に入りますが、最初にU-233を作り出すための核分裂性物質は、上に述べたとおり調達競争のただ中にあります。
当NPOが紹介してきたTHORIMS-NES構想が、加速器を使ってトリウムからU-233を作る施設を独立させて構想したのは、この「タネ」の供給を他国や余剰兵器材料に依存しない道を探したという側面があります。
燃料が設計を決める #
最後に、このページの出発点に戻ります。燃料の調達可能性は、しばしば炉の設計そのものを書き換えます。
分かりやすい例が、デンマークのSaltfoss(旧Seaborg)です。同社は当初、HALEUを燃料とし、減速材に水酸化ナトリウムを使うという独特の設計を採っていました。しかしHALEUの供給が計画に間に合わないリスクを避けるため、2023年に燃料を低濃縮ウランへ、減速材を黒鉛へと変更しています。
技術的な優劣ではなく、手に入るかどうかで設計が決まったわけです。
同じ力学は、フランスが塩化物を選ぶ判断にも働いています(世界の熔融塩炉計画)。既に持っている湿式の再処理設備と接続できることが、塩の選択理由の一つに挙げられていました。
炉は単体では存在できません。 燃料を作る産業、運ぶ制度、処理する設備——その全体が揃って初めて動きます。熔融塩炉のニュースを読むとき、設計の話と供給網の話を区別したうえで、両方を見る必要があるのはこのためです。
まとめ #
- HALEU(5%超20%未満の濃縮ウラン)は多くの新型炉が必要とするが、西側の供給体制は立ち上がったばかりで、規模はまだ小さい
- 米国が濃縮工場を建て直しているのは、1990年代に市場原理で手放した産業を、安全保障上の理由で買い戻しているため
- 余剰プルトニウムの民間供給は、処分先のない核弾頭由来の材料と、起動用の「タネ」を必要とする新型炉の需要が噛み合った結果
- フッ化物熔融塩炉にはリチウム7という別の急所があり、こちらの供給はロシアと中国に依存している
- トリウム自体は余っている。 不足しているのは、最初にU-233を作り出すための核分裂性物質のほう