基礎知識
トリウム熔融塩炉(溶融塩炉)に関するニュースは、専門用語なしには書きにくく、結果として何が起きているのか分かりにくくなりがちです。
ここでは、報道を読み解くために必要な最小限の知識を、数式を使わずにまとめています。まず次の2ページから読むことをおすすめします。
- 燃料サイクルを閉じるという難題 — なぜ今、液体燃料の炉が注目されているのか
- 3つの質問で分かる、熔融塩炉の見分け方 — ニュースに出てくる炉を位置づけるための地図
- 核燃料をどこから調達するか — HALEU、余剰プルトニウム、リチウム7
- 熔融塩炉の安全性 — 止める・冷やす・閉じこめる、で見た特徴と課題
- 核不拡散と核セキュリティ — 核兵器への転用、核テロ、余剰プルトニウム
歴史から見る #
なぜ半世紀前に実現しなかったのか、そしてなぜ今なのか。3ページの連作です。
- なぜ世界は軽水炉に収斂したのか — 固体燃料に最適化された世界がどう出来上がったか
- 固体燃料でのトリウム利用の試み — 過去のトリウム挑戦はなぜ挫折したのか
- 商用炉をつくるという壁 — 熔融塩炉がこれから経験する未知の領域
資料 #
- 世界の熔融塩炉計画 — 各国の開発計画を分類ごとに整理した資料
- 熔融塩炉の安全性について(詳細資料) — 吉岡律夫による技術資料(2011年)
- 核不拡散に関する詳細資料 — U-233、原子炉級Pu、ダーティボム、Pu消滅量
熔融塩炉の安全性
「熔融塩炉は安全です」という説明をしばしば見かけます。しかしこの言い方は雑すぎます。
3つの質問で分かる、熔融塩炉の見分け方で述べたとおり、熔融塩炉(溶融塩炉)と呼ばれるものの中身は大きく異なります。安全性の根拠も、設計によって変わります。 ある設計で成り立つ説明が、別の設計ではそのまま使えないことがあります。
商用炉をつくるという壁
熔融塩炉(溶融塩炉)の利点を語るとき、見落とされがちなことがあります。炉が動くことと、商用の発電所として成立することの間には、別種の壁があるという事実です。
このページは、熔融塩炉に期待する立場から、あえてその壁について書きます。過大な期待は、裏切られたときに技術そのものへの不信に変わるからです。
プロトタイプと商用の間にあるもの # 原子力の歴史は、試作機は動いたが商用化できなかった技術で埋まっています。
固体燃料でのトリウム利用の試み
トリウムを核燃料に使うという発想は、決して新しいものではありません。むしろ原子力の黎明期から有力な選択肢の一つであり、1960年代から70年代にかけて、複数の国が実際に炉を建てて試しています。
そして、そのすべてが実を結びませんでした。
「トリウムが有望なら、なぜ半世紀前に実現しなかったのか」——これは当然の疑問です。答えを知ることは、現在の熔融塩炉の位置づけを理解する助けになります。
核不拡散と核セキュリティ
原子力の安全というと、多くの人は事故を思い浮かべます。しかし専門の世界では、まったく別の軸が同じくらい重視されています。悪意を持った人間が関わる場合です。
国家が発電用の技術を核兵器の開発に転用しないか(核不拡散) 集団や個人が核物質を盗み出し、悪用しないか(核セキュリティ) 熔融塩炉の安全性が「壊れたらどうなるか」の話だとすれば、こちらは「盗まれたらどうなるか」の話です。そして原子力の歴史を見ると、技術の進路を決めてきたのは、しばしば事故ではなくこちらの軸でした。1977年に米国が再処理を凍結し、固体燃料のトリウム利用が行き場を失ったのも、この軸の判断です。
核燃料をどこから調達するか
熔融塩炉(溶融塩炉)に関するニュースを追っていると、炉の設計とは無関係に見える話題が繰り返し登場します。米国の濃縮ウラン工場の建設計画、燃料の供給不足、兵器級プルトニウムを民間企業に渡すという決定——。
これらは脱線ではありません。どんなに優れた設計でも、燃料が手に入らなければ炉は動きません。 そして燃料が手に入るかどうかは、しばしば炉の設計そのものを書き換えます。
なぜ世界は軽水炉に収斂したのか
現在、世界で動いている原子炉のほとんどは軽水炉です。あまりに支配的なので、それが唯一の合理的な解だったから残ったかのように見えます。
しかし実際には、そうではありませんでした。原子炉には最初からいくつもの選択肢があり、軽水炉が勝ったのは技術的な優劣だけが理由ではありません。そして軽水炉に最適化された世界が出来上がったことで、他の道は探索されないまま今日に至っています。
熔融塩炉(溶融塩炉)に今あらためて関心が集まる理由を理解するには、この経緯を知っておく必要があります。
燃料サイクルを閉じるという難題
原子力の議論は、しばしば「安全か、危険か」という一本の軸に押し込められます。しかし技術の現場で本当に難しいのは、安全性と、燃料サイクルを閉じることとが、正面から衝突するという点です。
熔融塩炉(溶融塩炉)に世界が再び注目している理由も、突き詰めればここにあります。このページでは、なぜその衝突が起きるのか、そして液体燃料がなぜそこから抜け出せる可能性を持つのかを説明します。
なぜ「サイクルを閉じる」必要があるのか # 現在の原子力発電のほとんどはワンススルー、つまり燃料を一度使って捨てる方式です。この方式には、二つの大きな宿題が残ります。
世界の熔融塩炉計画
このページは詳しく知りたい方向けの資料です。先に3つの質問で分かる、熔融塩炉の見分け方をお読みいただくと、以下の分類が理解しやすくなります。 3つの質問——熔融塩は燃料か冷却材か/中性子は遅いか速いか/何を燃やすか——で分類すると、世界の開発計画は4つのグループに分かれます。
3つの質問で分かる、熔融塩炉の見分け方
ニュースで「溶融塩炉」という言葉を見かける機会が増えました。しかし、そこで語られている炉は、同じ名前で呼ばれているだけで、目的も仕組みも大きく異なることがあります。
熔融塩炉(溶融塩炉)とは「熔けた塩を使う原子炉」という意味でしかなく、自動車を「エンジンで動く乗り物」と言うのに近い括りです。軽トラックとF1マシンを区別するように、中身を見分ける必要があります。
そのための質問は3つです。この3つに答えられれば、報道に出てくるどの炉についても、何を目指したものなのかが分かります。
核不拡散に関する詳細資料
本資料は旧サイトに掲載していた4本の記事をまとめたものです。各節の末尾に原文の執筆時期を記しています。数値や状況は執筆当時のものです。一般の方向けの解説は核不拡散と核セキュリティをご覧ください。 目次 # 熔融塩原子炉の燃料から原爆は作れないのですか? 軽水炉からの再処理プルトニウムで原爆は作れるのでしょうか? プルトニウムのもう一つの危険性「ダーティボム」 軽水炉でプルトニウムを燃やすと、どれ位Puを減らせるのでしょうか? 1. 熔融塩原子炉の燃料から原爆は作れないのですか? # 「熔融塩原子炉では、トリウムからU233が生産されています。このU233を何かの方法で取り出せば、U235と同じく、原爆が出来るのではないか?」と考えられる方がおられるかも知れません。