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世界の熔融塩炉計画

このページは詳しく知りたい方向けの資料です。先に3つの質問で分かる、熔融塩炉の見分け方をお読みいただくと、以下の分類が理解しやすくなります。

3つの質問——熔融塩は燃料か冷却材か/中性子は遅いか速いか/何を燃やすか——で分類すると、世界の開発計画は4つのグループに分かれます。

以下は設計思想の分類であり、開発の進捗状況を示すものではありません。各計画の最新状況は、それぞれの発表元をご確認ください。

A. 熔融塩冷却炉 — 固体燃料を熔融塩で冷やす
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計画 国 燃料 特徴
Kairos Power KP-FHR 米 TRISO(固体・HALEU) 実証炉Hermesを建設中。既存技術との連続性が高い

このグループだけ、燃料が固体です。実現までの距離は近い一方、燃料サイクルは閉じられません。

B. 燃料塩・熱中性子・トリウム — 本命の構成
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計画 国 減速材 特徴
TMSR-LF1 中国 黒鉛 稼働中の実験炉。トリウムからのU-233転換を実証
Copenhagen Atomics デンマーク 重水 40フィートコンテナに収める量産思想。廃棄物Puを起動用に使う
Flibe Energy(LFTR) 米 黒鉛 二流体方式。余剰プルトニウムを起動用に使う構想
FUJI(THORIMS-NES) 日本 黒鉛 自給自足炉に徹し、連続化学処理を持たない

減速材に黒鉛ではなく重水を使うCopenhagen Atomicsのような例もあり、選択肢は一つではありません。

C. 燃料塩・熱中性子・ウラン — まず発電を成立させる
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計画 国 燃料 特徴
Terrestrial Energy IMSR カナダ 低濃縮ウラン 炉心ユニットごと交換する方式
ThorCon 米・インドネシア ウラン+トリウム 造船所での量産を想定
Natura Resources MSR-1 米 HALEU(19.5%以上) 米国で液体燃料炉として初めて建設許可を取得(2024年9月、アビリーン・クリスチャン大学の研究炉)
Saltfoss(旧Seaborg) デンマーク 低濃縮ウラン 洋上バージに搭載する構想
Thorizon One オランダ・仏 廃棄物+トリウム 炉心を交換式カートリッジに分割

トリウムを直接狙わず、まずウランで発電を成立させることを優先するグループです。既存の燃料供給網を使えるため、事業として立ち上げやすいという判断があります。

D. 燃料塩・高速中性子 — 廃棄物を燃やす、あるいは増殖する
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計画 国 塩 燃やすもの 特徴
TerraPower MCFR 米 塩化物 ウラン 高温・高出力を狙う
Moltex SSR-W カナダ・英 塩化物 使用済燃料のPu 燃料塩を流さず管に収める独特の方式
Naarea XAMR 仏 塩化物 余剰Pu・MA 80MWthの小型炉。炭化ケイ素製の炉心
ARAMIS(CEA・オラノ) 仏 塩化物 Pu、のちアメリシウム 国の研究機関による構想。300MWth
Exodys Energy(旧Elysium) 米 塩化物 使用済燃料・Pu・劣化ウラン アクチノイドの99.9%以上を消費する設計
Stellaria(Stellarium) 仏 塩化物 Pu(増殖炉) CEAとシュナイダーエレクトリック由来
MSFR-Cl 仏・EU 塩化物 ウラン/Pu 後述するMSFRの塩化物版
MSFR-F 仏・EU フッ化物 トリウム MSFRの参照版。高速の増殖炉
MOSART ロシア フッ化物 TRU・MA 2.4GWth。後述

このグループは「塩化物」で括れません。 表の下2行が示すとおり、フッ化物でありながら減速材を持たない高速炉も存在します。高速炉を目指すときに塩化物が選ばれやすいのは事実ですが、それは必然ではありません。

フランスからスタートアップ・国研を問わず複数の構想が出ているのは、使用済燃料の再処理を続けてきた国として、蓄積したプルトニウムとMAの行き先を必要としているという事情によります。同じ動機は、後述するロシアにも当てはまります。

塩の選択は、中性子の速さだけでは決まらない
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フッ化物か塩化物かという選択は、中性子の速さだけで決まっているわけではありません。廃棄物を燃やす炉では、むしろ別の理由のほうが決定的です。

溶けきる量が違う。 プルトニウムやMAを大量に燃やすには、それらを高い濃度で塩に溶かし込む必要があります。ところがフッ化物塩では、これらの元素の溶解度がそれほど高くありません。塩化物塩のほうが多く溶かせるため、廃棄物燃焼を狙うと塩化物が有利になります。

既存の再処理設備と繋がるかどうか。 フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)がARAMIS構想で塩化物を選んだ理由には、塩化物は水に溶けるという性質が挙げられています。フランスが既に持っている湿式(水溶液系)の再処理・分離技術をそのまま使える、という判断です。炉の設計が、その国が既に持っている設備に引っ張られるわけです。

ただし、溶解度の問題には別の解き方もあります。 後述するロシアのMOSARTは、同じくPuとMAを燃やす高速炉でありながらフッ化物を使い、塩の配合を変えることで溶解度を確保しています。同じ課題に対して、フランスは塩を変え、ロシアは配合を変えた——目的が同じでも解き方は一つではありません。

分類からはみ出す例
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3つの質問は便利ですが、割り切れない設計もあります。

  • Moltex SSR-W は燃料が液体でありながら、循環させずに管の中に静置します。Q1で「燃料」と「冷却材」のどちらとも言い切りにくい中間形です
  • Thorizon One は炉心を交換式カートリッジに分割しており、「液体燃料だが、まとまった単位で取り替える」という発想です

いずれも、Q1とQ2が示すトレードオフを別の形で解こうとする試みだと読めます。

MSFR — 同じ名前で塩が二種類ある
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ニュースや論文に登場する**MSFR(Molten Salt Fast Reactor)**は、注意が必要な名前です。

MSFRはフランスの国立科学研究センター(CNRS)が2004年から開発してきた構想で、EUの一連のプロジェクト——EVOL(2009-2013)、SAMOFAR(2015-2019)、SAMOSAFER(2019-2023)——を通じて育てられてきました。第4世代原子炉の国際フォーラム(GIF)が2008年に参照炉型の一つに選んでいます。

重要なのは、MSFRには塩の異なる2つの版があることです。

MSFR-F(参照版) MSFR-Cl
塩 フッ化物(LiF) 塩化物(NaCl)
燃料サイクル トリウム/U-233 ウラン/プルトニウム
燃料塩の量 18 m³ 45 m³
登場時期 EVOL以来の原型 SAMOSAFERで追加

どちらも3 GWth・減速材なしの高速炉です。つまり「MSFRはフッ化物か塩化物か」という問いには、どちらの版の話かによるとしか答えられません。

さらにCNRSはオラノとの共同で、RAPTOrという燃焼専用版(250 MWth、Pu・MAを燃やす)も検討しています。CNRSは炉のメーカーではなく、成立しうる設計の範囲を洗い出すことを目的としているため、このように複数の版が並行して存在します。

なお、フランスにはEUプロジェクトのMSFRとは別に、CEAとオラノによるARAMISという独立した構想もあります。「フランスの塩化物高速炉」と報じられていても、CNRS系(MSFR-Cl、RAPTOr)、CEA系(ARAMIS)、スタートアップ(Naarea、Stellaria)のどれを指すのかは、記事ごとに確認が必要です。

MOSART — フッ化物のまま高速炉を目指すロシア
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欧米の議論からはやや見えにくいものの、ロシアは熔融塩炉の研究を四半世紀にわたって続けています。その中心が、クルチャトフ研究所のMOSART(MOlten Salt Actinide Recycler and Transmuter、熔融塩アクチノイド再利用・変換炉)です。

MOSARTは2000年代初頭に国際科学技術センターの支援で始まり、EUのEVOLプロジェクトとも、ロシア側のMARS(熔融塩によるMAリサイクル)を通じて連携していました。MSFRとMOSARTは、いわば同時期に東西で並行して育てられた兄弟のような構想です。

概要
熱出力 2.4 GWth
塩 フッ化物(LiF-NaF-BeF₂)
減速材 なし(高速〜中速の中性子)
燃料 軽水炉の使用済燃料から取り出したTRU(Pu・MA)のフッ化物
狙い 廃棄物の変換。VVER炉の使用済燃料から年間250kg超のMAを処理

MOSARTが興味深いのは、プルトニウムやMAが溶けにくいというフッ化物の弱点を、塩化物に乗り換えずに解いている点です。

FLiBe(LiF-BeF₂)にはこれらの元素があまり溶けません。そこでMOSARTではフッ化ナトリウム(NaF)を大幅に加えた三成分の配合を採用し、溶解度を確保しています。トリウムを加えた版も検討されています。

現在も計画は動いています。 ロスアトムは、シベリアのジェレズノゴルスク鉱業化学コンビナートに熔融塩の実証炉を建設する計画を進めており、クルチャトフ研究所の科学指導のもとで設計の第一段階を終えています。運転開始の目標は2031年とされています。

2026年7月には、キュリウム——MAの中でも化学的に特に扱いが難しい元素——の変換にこの炉を用いる成立性を確認したと発表されました。高速炉で処理できるMAは高速炉が担当し、化学的に手強いものだけを熔融塩炉が引き受けるという役割分担の構想です。

炉の種類ごとに仕事を分ける、というこの考え方は、増殖と発電を別の施設に分けるTHORIMS-NESとも通じるところがあります。一基の炉にすべてを背負わせないという発想は、複数の国で独立に現れているようです。

出典
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欧州の設計については、Euratomの知識拠点プロジェクトENDURANCEが公開した設計レビュー報告書に、塩の種類・スペクトル・出力・用途が統一様式で整理されています。書籍紹介で解説しています。